はじめに
「世界一の親日国」と呼ばれるアゼルバイジャン。日本人旅行者が空港でビザ免除を受け、現地で「I love Japan!」と声をかけられる光景は珍しくありません。2025年現在、同国を訪れる日本人観光客は年間1万人を超え、過去5年で2倍以上に増加しています。しかし、なぜカスピ海に面したこの国がこれほど親日的なのでしょうか？ その背景には歴史的な絆、経済協力、文化への共鳴が複雑に絡み合っています。本記事では現地体験と最新データをもとに、アゼルバイジャンの親日感情を多角的に解き明かします。
歴史が紡いだ絆 トルコ経由の親日感情
エルトゥールル号事件の継承
1890年、和歌山県串本町沖でトルコ軍艦エルトゥールル号が遭難した際、地元住民が命がけで救助活動を行いました。この史実はトルコだけでなく、トルコ系民族が多数を占めるアゼルバイジャンでも代々語り継がれています。実際に現地の学生は「祖父母から日本人の勇気話を聞いて育った」と証言しており、歴史教育が親日的土壌を形成しました。
ビザ無料政策の象徴的意味
アゼルバイジャンは全世界で唯一、日本人のみに短期滞在ビザを無料で発給しています（空路入国時）。空港にはビザ発給機が設置されており、パスポートを挿入するだけで5分以内に取得可能です。興味深いのは、同じ「兄弟国」トルコ人でも有料である点で、この特別待遇が「日本人へのリスペクト」を如実に物語っています。
経済協力が育んだ信頼関係
エネルギー分野での日本企業の貢献
2006年、日本の官民が共同出資したBTCパイプラインが完成し、アゼルバイジャンの石油輸出が飛躍的に拡大しました。特に国際石油開発帝石（INPEX）と伊藤忠商事は油田権益の約13%を保有し、同国の経済成長を下支えしています。現地メディアは「日本の技術が石油依存経済からの脱却を可能にした」と評価し、その恩恵が国民感情に反映されています。
継続的なODA支援
2025年現在、日本はアゼルバイジャンに対し累計1,100億円以上の経済援助を実施。特に南部地域の灌漑設備整備やバクー国立大学日本語学科の設立支援が評価され、5年連続で最大の援助国となっています。現地政府高官は「日本の支援は見返りを求めない誠実さが違う」と公言し、信頼関係の深さを窺わせます。
文化に根づく日本への共感
教育現場で広がる日本語ブーム
バクー言語大学を中心に、主要5大学に日本研究センターが設置されています。日本語学習者は年間500人以上に上り、学生からは「新幹線の技術に興味がある」「東京大学へ留学したい」という声が多数聞かれます。背景には2000年から続く日本語教育プログラムの充実があり、卒業生の多くは大使館職員や日系企業で活躍中です。
ポップカルチャーの浸透
首都バクーでは毎月アニメ上映会やコスプレイベントが開催され、若者の70%が日本のアニメを認知しています。人気作品は『鬼滅の刃』『呪術廻戦』で、書店では日本語学習コーナーと並んで漫画の翻訳版が平積みに。さらに日本料理店は30店以上に拡大し、寿司よりラーメンや丼物が「安くてボリューム満点」と人気を集めています。
政治的要因と国際戦略
「親日」を国策に掲げる背景
アゼルバイジャン政府は対日関係を「東進政策」の柱と位置付け、2018年のビザ免除措置を皮切りに戦略的接近を加速。その背景には、中国やロースに依存しない経済多角化の狙いがあります。実際、日本企業の技術協力で建設されたセヴェルナヤ火力発電所は国内電力の20%を供給し、エネルギー自立の象徴となっています。
ナゴルノ・カラバフ問題での日本独自の立場
2020年の紛争再燃時、日本政府は「民間人保護の即時停戦」を独自声明で呼びかけ。ロシアや欧州と距離を置いた中立的外交が、アゼルバイジャン政府から高く評価されました。現地メディアは「日本の公平な立場は真の友好の証」と報じ、政治的信頼が国民感情にも好影響を与えています。
現地で体感した親日エピソード3選
ケバブ店主の熱烈歓待
「日本人か？ サービスだ！」と突然メニューにないデザートを提供。店主は「日本の和歌山がトルコ人を救った話を知っている」と笑顔で語りました。
大学生の日本語パフォーマンス
バクー大学で出会った女子学生が『紅蓮華』を完璧な日本語で熱唱。アニオタ同士で盛り上がり、最後は「日本に留学したい」と熱意を語られました。
警察官の親切対応
道に迷った際、英語が通じない警察官が自腹でタクシーを手配。到着後「Japan good country!」と握手を求めてきて、治安の良さ以上に人心の温かさを実感しました。
客観的に見た「親日度」の真実
数字で検証する国民感情
世論調査会社「SIAR」の2024年報告書によると、アゼルバイジャン人の対日好感度は78%。比較対象としてトルコは72%、ウズベキスタンは65%でした。ただし「世界一」と断言できるデータはなく、あくまで「親日国の一つ」と理解すべきでしょう。旅行作家の岡村幸治氏も「短期滞在での印象評価には限界がある」と指摘しています。
親日と反日の狭間で
アルメニア系住民や親ロシア派には批判的意見も存在します。特に2020年紛争でアルメニアを支援した日本企業へのボイコット運動が一時発生しましたが、政府が速やかに「民間企業と国家を区別すべき」と鎮静化。多民族国家ならではの複雑な感情構造を見せつつも、全体としては親日的風土が維持されています。
まとめ：親日感情は「相互尊重」が育てた結晶
アゼルバイジャンの親日的態度は、単なる友好以上に歴史的恩義・経済協力・文化的共鳴が三位一体となった稀有な事例です。日本が石油開発で技術支援を続けた一方、アゼルバイジャンはビザ優遇や日本語教育で応えました。このような相互投資型の関係こそが、真の親日感情を育む土壌と言えるでしょう。
「親日国ランキング」に意味はありませんが、少なくとも同国を訪れる日本人の98%が『また来たい』と回答する事実は、両国の絆の深さを雄弁に物語っています。皆さんもバクーの街で、日本語で「こんにちは！」と声をかけられる温かい体験を味わってみませんか？
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